不動産仲介の現場では、まとまった一つの業務よりも、小さな作業の積み重ねに時間を取られます。物件情報を別の画面へ転記する。反響の担当者を確認する。内見日程を何度も調整する。過去のやり取りを探してから追客する。どれも一回なら数分でも、件数と担当者が増えるほど営業時間を圧迫します。
作業時間を削減するには、いきなり新しいツールを選ぶのではなく、「やめられる作業」「手順をそろえる作業」「データをつなぐ作業」「自動化する作業」を切り分けることが先です。本記事では、賃貸・売買の仲介業務をカテゴリごとに分け、現場で実行しやすい改善策と効果の測り方を解説します。
採用と定着を進めながら、既存メンバーへ集中している作業を減らします。
入力時間だけでなく、探す・待つ・やり直す時間まで確認します。
紙かデジタルかではなく、情報が次の工程まで再利用されているかを見ます。
厚生労働省の雇用動向調査によると、不動産業・物品賃貸業の未充足求人数は、2025年6月末時点で3万800人、欠員率は3.3%でした。前年同期の2万5,300人、2.8%をいずれも上回っています。不動産仲介だけを切り出した数字ではないため仲介会社の実態と同一視はできませんが、業界区分全体では人員を充足できていない枠が増えています。
一方、同じ調査では入職者数も前年同期より増えています。「人が入ってこない」と一括りにするより、採用と定着を進めながら、既存メンバーに集中している作業も減らす。この二つを並行して考えるほうが現実的です。
仲介業務は、反響対応、物件確認、提案、内見、申込、契約と流れています。ただし、現場の情報が同じ順番で流れるとは限りません。顧客情報はメール、希望条件は担当者のメモ、物件情報は別システム、日程は個人のカレンダーにある。必要な情報が散らばると、作業のたびに確認と転記が発生します。
さらに、電話や来店で作業が中断されると、再開時には「どこまで終わったか」を確かめなければなりません。短縮すべきなのは、パソコンを操作している時間だけではなく、情報を探す時間、返答を待つ時間、ミスを直す時間まで含めた所要時間です。
紙の帳票をPDFや表計算ファイルに置き換えても、同じ内容を複数の場所へ入力していれば、作業量はあまり変わりません。むしろ、ファイルの保存先や最新版が分からなくなり、確認作業が増えることもあります。
見るべきは紙かデジタルかではなく、情報がどこで発生し、誰が更新し、次の業務へどう渡るかです。一度入力した物件情報や顧客情報を後工程でも使える状態にすると、転記と照合をまとめて減らせます。
「営業担当が忙しい」だけでは、改善策を選べません。まず連続する通常営業の一週間を実測し、日々繰り返す作業の名前、所要時間、発生回数、中断、手戻りを記録します。定休日や担当業務が曜日で変わる会社は、すべての営業パターンが入る期間を選んでください。
ただし、一週間の実測だけでは、月次の請求・入出金処理、締め作業、不定期の契約関連業務を拾えません。過去の帳票、カレンダー、処理履歴を確認し、担当者への聞き取りで所要時間と発生回数を補います。繁忙期だけ発生する作業も通常週へ混ぜず、繁忙日の記録を別に取ります。
分単位の厳密さより、同じ作業を同じ名前で記録することが大切です。通常時と繁忙時を分けておけば、件数が増えた影響と、作業手順そのものの遅さを混同せずに済みます。
| 記録する項目 | 確認したいこと |
|---|---|
| 作業名 | 「物件登録」「空室確認」「追客メール」など、改善できる大きさに分ける |
| 所要時間と回数 | 一回の長さだけでなく、週・月に何回発生するかを見る |
| 待ち時間 | 社内確認、顧客返信、鍵の受け渡しなどで止まる工程を見つける |
| 中断と手戻り | 電話対応後の再確認、入力漏れの修正、最新版の探し直しを数える |
| 使用中の帳票・ツール | 同じ情報を何度入力しているか、どこでデータが途切れるかを確かめる |
自動化から考えると、不要な作業まで速く処理する仕組みになりかねません。改善は、次の順で検討すると無駄を抑えられます。
例外が多く、その都度判断が必要な業務は、無理に自動化すると確認負担が増えます。人が判断する範囲と、機械に任せる範囲を先に決めておくことが欠かせません。
一回の作業時間が長くても、月に一度しか発生しないなら、削減効果は限定的です。反対に、一回は短くても、全員が毎日繰り返す転記は大きな改善対象になります。
一人当たりの件数を使う場合は、次の式で計算します。
(現状の1件当たり時間-改善後の1件当たり時間)×一人当たりの月間件数×対象人数
チーム全体の月間件数が分かっている場合は、最後の「対象人数」を掛けません。分と時間を混ぜず、同じ単位で計算します。
この削減見込みに、手戻りの多さ、顧客を待たせる影響、ミス発生時の重大さを加えて優先順位を決めます。ツールの費用だけでなく、初期設定や教育、運用確認にかかる時間も差し引いてください。
入力、確認、資料作成、日程調整など、同じ情報を何度も扱っている業務から見直します。まず、自社で負担が大きいカテゴリを確認してください。
物件登録で時間を奪うのは、文字入力そのものより、媒体ごとに項目と画像を入れ直す作業です。自社の物件マスタを入力元にし、ポータルサイトや自社サイトへ連携できれば、同じ情報を何度も作る必要がなくなります。
導入前には、連携できる媒体、必須項目の違い、画像やコメントの変換ルール、公開前の承認手順を確認します。連携できない項目が多いままでは、最後に手入力が残り、かえって確認箇所が増えるためです。
また、一括反映後も、賃料や募集状態など重要項目の確認は必要です。目指すのはチェックの廃止ではなく、転記を減らし、確認すべき項目へ注意を集中させることです。
反響メールを受け取ってから、担当を決め、顧客情報を登録し、返信文を作る。この初動が人の判断と手入力だけに頼っていると、繁忙時ほど対応漏れが起きやすくなります。
ポータルからの反響を顧客管理システムへ取り込み、担当者、対応状況、次回連絡日を一元管理すると、誰が何をすべきかを確認しやすくなります。定型文や自動返信は初回連絡を速めるのに役立ちますが、希望条件や問い合わせ内容まで無視した一斉送信では、対応品質が落ちます。自動化するのは受付と通知、個別判断は担当者に残す、といった線引きが必要です。
追客では、送信数を増やすことより、連絡の理由がある顧客を見つけるほうが重要です。希望条件、紹介済み物件、内見履歴、過去の返信を一画面で確認できれば、履歴を探す時間を減らしながら、同じ物件を繰り返し案内する事態も防ぎやすくなります。
物件を探すたびに画像を保存し、PDFを作り、メールへ添付する運用では、提案数が増えるほど資料作成に追われます。顧客ごとの候補物件をWeb上で共有し、物件情報の更新を反映できる仕組みなら、差し替えと再送の回数を抑えられます。
内見日程も、候補日時をメールで往復するだけでは決まりません。担当者の予定、物件の内見可否、鍵の手配を確認できる流れを整え、顧客には選べる候補をまとめて提示します。予約フォームやカレンダー連携を使う場合も、即時確定できる枠と、管理会社への確認が必要な枠を分けておくと混乱を防げます。
オンライン内見やVRは、現地内見をすべて置き換えるものではありません。遠方の顧客や候補物件が多い顧客に対して、まず設備、眺望、周辺環境などを確認してもらい、現地で見る物件を絞る使い方が現実的です。営業担当者の移動を減らすだけでなく、顧客も比較しやすくなります。
現地内見では、鍵を受け取るためだけの移動や待機が発生していないかを確認します。スマートロックや予約連携を利用できる物件なら、解錠権限と利用時間を限定して受け渡しを簡略化できます。ただし、本人確認、案内方法、利用履歴、トラブル時の連絡先など、運用ルールを決めずにセルフ内見へ切り替えるのは避けるべきです。
契約業務では、まず物件情報や顧客情報を申込書、重要事項説明書、契約書へ転記する回数を減らします。帳票を電子化しても、毎回ゼロから入力していれば大きな短縮にはなりません。入力元を決め、変更した項目がどの帳票へ反映されるかを明確にしたうえで、最終確認を人が行う流れにします。
IT重説と、重要事項説明書などの電磁的方法による提供は、別の仕組みです。国土交通省の実施マニュアルでは、IT重説には相手方の承諾、記名された書類の事前提供、双方向で映像と音声をやり取りできる環境、宅地建物取引士証を視認できたことの確認などが求められます。通信状態を確認し、解消できない不具合が起きた場合は中止できる手順も必要です。
対象書面を電子提供する場合も、相手方の承諾を得て、紙に出力できる形式や改変の有無を確認できる措置を整えます。オンライン化すれば無条件に契約全体が完結するわけではありません。対象書面、本人確認、社内承認、保管方法を工程ごとに確認してください。
顧客対応をシステムへ入力した後、同じ内容を日報やチャットにも書いているなら、報告の流れが重複しています。対応履歴、次回行動、案件の進捗を共通項目として記録し、日報や会議資料はそのデータから確認できるようにします。
ただし、自由記述をすべてなくすと、顧客の迷いや担当者の見立てが抜け落ちます。件数や進捗は選択式で集計し、判断に必要な補足だけを短く記入する設計が実務向きです。管理者側も、使っていない報告項目を増やさないよう定期的に見直します。
請求データの転記、定型帳票の作成、決まった条件でのファイル保存など、判断基準と操作手順が安定している作業はRPAと相性があります。一方、契約条件や例外処理が頻繁に変わる業務は、ロボットの修正と確認にかえって時間がかかります。
RPAを入れても、ミスが完全になくなるわけではありません。外部システムの画面変更、入力データの不備、想定外の処理によって停止や誤作動が起こる可能性があります。実行結果とログを確認する担当者、異常時に止める条件、手作業へ戻す代替手順まで含めて運用を設計してください。
機能の多さだけで選ばず、減らしたい作業、既存データとの接続、現場での使いやすさを順に確認します。
多機能なシステムほど自社に合うとは限りません。「物件登録に時間がかかる」「反響の割り振りで止まる」「追客履歴を探せない」など、改善対象を作業の言葉で定め、その工程に必要な機能を比較します。
選定時には、現状の所要時間と発生回数をベンダーにも共有すると、デモで確認すべき操作が明確になります。画面の説明を聞くだけでなく、普段使っている物件や帳票に近いデータで、入力から次工程までを通して試してください。
「API連携可能」「CSV対応」と書かれていても、必要な項目をそのまま渡せるとは限りません。物件番号、顧客ID、画像、設備、ステータスなど、連携したい項目ごとに入力元と反映先を確認します。
連携できない部分は、誰が、いつ、どの手順で補うのかまで決めておきます。ここが曖昧なまま導入すると、新旧システムの二重管理が残り、作業時間が増えてしまいます。
操作確認を管理者やITに詳しい担当者だけで終わらせると、現場でつまずく箇所を見落とします。実際に日常業務を担当するスタッフに試してもらい、入力箇所、画面遷移、スマートフォンでの使いやすさ、エラー表示の分かりやすさを確認してください。
サポート体制も問い合わせ窓口の有無だけでは足りません。初期設定、データ移行、運用ルール作成、導入後の見直しについて、どこまで支援を受けられるかを確認します。
最初から全店舗・全業務へ広げず、一つの作業で試し、時間と品質の両方を確認してから対象を広げます。
すべての店舗、すべての業務を一度に変えると、問題が起きた原因を特定しにくくなります。最初は、反響の取り込みや物件登録など一つの作業に絞り、普段その業務を行うメンバーで試します。
試行中は、従来の手順へ戻す条件も決めておきます。顧客対応や契約業務を止めずに検証できるため、現場も新しい運用を受け入れやすくなります。
効果を比べるため、導入前の基準期間と試行期間は、同じ曜日構成と業務範囲で記録します。繁忙度が大きく違う場合は総時間で比べず、1件当たりの所要時間にそろえてください。あわせて、手戻り率(修正件数÷処理件数)、未処理件数、他の担当者への確認回数、顧客へ返答するまでの時間も見ます。
試行前には、「1件当たり時間が自社の目標以内になる」「手戻り率を悪化させない」「顧客への初回返答を遅らせない」など、継続の条件を決めます。目標を満たせば対象を広げ、時間は短縮したものの手戻りが増えた場合は設定や手順を修正します。時間も品質も改善しないなら、導入範囲の縮小や撤回を含めて見直します。
作業時間の削減が小さくても、担当者不在時に別の人が対応できるようになったなら、属人化を減らした効果があります。反対に、総時間だけが短く見えても、処理件数が減っていたり、後工程の修正が増えていたりするなら、効率化できたとは判断できません。
空いた時間をそのままにすると、別の細かな作業で埋まりがちです。「未対応の反響をなくす」「提案前のヒアリングを充実させる」「掲載物件の写真とコメントを見直す」など、戻す先を決めます。
業務効率化の成果は、単に早く帰れることだけではありません。接客や提案へ使える時間が増え、繁忙時でも処理が滞りにくくなり、担当者が休んでも情報を引き継げる。そこまで変わって、初めて現場に定着したと判断できます。
不動産仲介の仕事には、人が判断しなければならない場面が数多くあります。顧客の希望をくみ取ること、物件の違いを説明すること、契約内容を確認することまで、すべてを自動化する必要はありません。
先に減らすべきなのは、同じ情報の転記、最新版を探す時間、担当確認の往復、定型資料の作り直しです。作業を棚卸しし、「やめる・そろえる・つなぐ・自動化」の順で改善すれば、ツールを増やす前に解決できる問題も見えてきます。
そのうえで、物件登録、反響・追客、内見、契約、社内共有など、自社で負担が大きいカテゴリから仕組みを選びます。
削減した時間を接客と提案へ戻せるかを基準にすると、現場にも経営にも意味のある業務効率化になります。
画像引用元:グラングコア公式HP
(https://grung.co.jp/)>
仲介業務のフローと連動。アポ情報の共有で反響対応の精度を高め、来店率が13%向上※1した実例あり。
ボタン一つで物件周辺情報を自動取得、写真もAIが選定。間取り作成や登録を1件につき約7分※2で完了。
業者間流通サイト(BBサイト)の物件情報を自動取込・更新でき、手入力の手間を削減。最新物件をタイムラグなく社内へ反映できる。
画像引用元:いい生活賃貸クラウド公式HP
(https://www.es-service.net/)>
入居者対応とバックオフィス業務を同一のクラウド上で提供。複数ツールにまたがらず処理ができる。
入居者アプリから修理や整備要請を受けられ、電話対応にかかる時間を1/3~1/4※3に削減した例も。
オーナーマイページ機能で、収支状況や物件情報をオンラインでいつでも共有可能※4。書類作成のコスト削減と、オーナーとの信頼関係構築を両立できる。
画像引用元:ビルジム公式HP
(https://www.biljim.daishi-software.co.jp/index.html)>
隔月・3か月毎など変則的な請求を複数設定可。検針値の取込・集計も自動、不定期請求のミスを防止。
クラウド上で情報を一括管理。異なる物件に入居する同一テナントの状況などもスムーズに共有できる。
契約更新・解約処理に加え、契約開始前・解約後・一時利用などスポット請求にも柔軟に対応※4。テナント事業特有のイレギュラー業務を取りこぼさない。
※1 実績より。参照元:グラングコア公式HP(https://grung.co.jp/cases/roomselect/)
※2 機能紹介より。参照元:グラングコア公式HP(https://grung.co.jp/function/property_management/)
※3 実績より。参照元:いい生活賃貸クラウド公式HP(https://www.es-service.net/service/es-home/)